塗料の研究(1)アクリル樹脂塗料
こんにちは。
今回からシリーズとして、建築用塗料の考察を述べたいと思います。
(※工業用塗料などは、機会があれば述べたいと思います)
合成樹脂調合ペイント以降、アクリル樹脂をベースにした塗料が主流です。
アクリル樹脂塗料とは
アクリル樹脂を主成分とする塗料で、主に合成樹脂のアクリル系ポリマーをバインダー(結合剤)として使用しています。建築物の外壁や内装、屋根などに使われる塗料の中でも、比較的リーズナブルな価格で取り扱われています。
特徴
特徴 | 説明 |
コストパフォーマンス | 比較的安価で、施工コストを抑えることができます。 |
施工性 | 乾燥が早く、扱いやすい。刷毛やローラー、吹付けなど施工方法も多様。 |
発色性 | 色の再現性が高く、美しい仕上がりになります。 |
耐候性(※) | 単層アクリルは紫外線に弱く、劣化が早い傾向があります。改良型では向上しているものもあり。 |
密着性 | 下地への密着性が良く、さまざまな素材に塗布可能です。 |
主な用途
- 一般住宅の外壁・屋根塗装
- 内装の壁・天井仕上げ
- プレハブ建築や仮設建物
- 倉庫や工場などの低コスト要求の高い建物
メリット
- 安価で経済的
- 発色が良く、デザイン性に優れる
- 作業性が良く、DIY用途にも人気
デメリット
- 耐久性が他の樹脂(ウレタン、シリコン、フッ素)に比べて劣る
- 紫外線や風雨により劣化しやすく、5〜7年程度で塗り替えが必要なことが多い
比較:他の樹脂塗料と
種類 | 耐久年数(目安) | コスト | 特徴 |
アクリル | 約5〜7年 | 安い | コスト重視・短期使用向け |
ウレタン | 約8〜10年 | やや安い | 弾力性あり、汎用性高い |
シリコン | 約10〜15年 | 中程度 | コスパ良好、現在主流 |
フッ素 | 約15〜20年 | 高い | 高耐久、高価格 |
一般的には、以上の説明が周知されていると思います。
40年近く前ですが、トタンペイントは合成樹脂塗料(油性塗料です)が主流でした。SDルーフやSDトタン等です。東北では雪下ろしがあるため、その頃は屋根自体よく傷が付きました。
そのため1年か2年で塗装するケースがあり、安価で塗れる塗料が好まれました。
農家の方は、稲刈りが終わりご自分で塗られる方も多く、農協で取りまとめて販売されたこともありました。(春先に100缶近く予約販売されていました。)
そこに、ACルーフなどアクリル樹脂のトタンペイントが登場し、合成樹脂が3、4年の期待耐用年数のところ6、7年の耐久性があり、都市部や比較的温暖で屋根の雪下ろしが不要な地域の屋根には、大変歓迎されました。
次に、アクリル樹脂をもっと掘り下げたいと思います。
建築塗料において「アクリル樹脂塗料」とは一口に言っても、純粋なアクリル樹脂を使ったものから、他の樹脂(シリコンやウレタンなど)と共重合させたものまで、実にさまざまなタイプがあります。ここでは以下の2つに分けて説明します。
(1)純粋なアクリル樹脂塗料(Pure Acrylic)
■ 概要
純粋にアクリル樹脂(メタクリル酸メチルなどのモノマー)を主成分とし、共重合や混合を行わないタイプの塗料です。
■ 特徴
- 透明性・光沢性が高い
- 耐候性に優れる改良型もある
- 密着性・付着力が良好
- 水性タイプが主流で環境負荷が少ない
■ 使用用途
- 外壁・内壁塗装、屋根
- 下塗り材(プライマー)
- 建築物の保護・美観仕上げ
- 高意匠系塗装(例:意匠系仕上げ材のバインダー)
■ 備考
近年では、改良型の純アクリル樹脂(耐候性や耐水性を向上させたタイプ)も登場しており、価格と性能のバランスを重視する設計者からの評価も高まっています。
* 純アクリル樹脂塗料の代表的商品
メーカー | 商品名 | 特徴 |
エスケー化研 | 水性セラミシリコンアクリル(改良型) (※一部にシリコン配合あり) |
水性・高耐候の高機能アクリル、純度の高いアクリル製品もあり |
日本ペイント | オーデフレッシュU100(旧製品:Uシリーズ) | 水性アクリルで内外装用、価格が安く施工しやすい |
関西ペイント | アレスアクアレタン(アクリルウレタン) | 厳密には共重合だが、純アクリルに近い性能設計も可能 |
スズカファイン | ビーズコートシリーズ(ベースに純アクリル) | 防汚性に優れた意匠性アクリル塗料、断熱タイプもあり |
エービーシー商会 | アクアシールAC | 外装仕上げ用、純アクリル系で意匠性にも対応 |
日本では純アクリルは単体製品としてはやや少数で、共重合製品が主流。ただし、**「ピュアアクリル」や「100%アクリル」**と明記されている商品は比較的信頼性が高い傾向があります。
海外品ですと、アステックペイントやシャーウィン・ウイリアムズペイント製品などがございます。
そういえば、昔の吹き付けタイルのトップコートはアクリル樹脂塗料(溶剤)でした。
(2)アクリル共重合樹脂塗料(アクリルシリコン・アクリルウレタンなど)
■ 概要
アクリル樹脂をベースにしながら、他の機能性樹脂(例:シリコン・ウレタン・フッ素など)と共重合させた塗料。性能を高めるためのハイブリッド型。
■ 例と特徴
共重合タイプ | 特徴 | 用途例 |
アクリルシリコン | 耐候性・防汚性が高く、バランスに優れる。現在最も多用されているタイプ。 | 一般住宅の外壁・屋根塗装 |
アクリルウレタン | 弾性や密着性に優れ、木部や鉄部にも適用可能。 | 屋内外の鉄部・木部・複雑な下地 |
アクリルフッ素 | 高耐候性・高耐薬品性を持ちつつ、コストをやや抑えられる。 | 高層ビル・橋梁・重防食系用途 |
■ メリット
- アクリルの扱いやすさ+他樹脂の高性能を両立
- コストと耐久性のバランスが良い
- 幅広い素材に対応可能
■ なぜアクリルを共重合するのか?
アクリル樹脂は「密着性・作業性・コスト面」で優秀な一方、耐久性や紫外線劣化にはやや弱いという短所があります。
そこで、アクリルの樹脂骨格に他の高機能樹脂を取り込む(共重合する)ことで、バランスの良い塗膜性能が実現できます。
■ まとめ
種類 | 主な特徴 | 向いている用途 |
純アクリル樹脂塗料 | 低汚染性・光沢性・密着性 | 内外装の美観仕上げ、下塗り |
アクリル共重合樹脂塗料 | 耐久性・耐候性・コスパ重視 | 外壁・屋根、鉄部など多用途 |
*アクリル共重合樹脂塗料の代表的商品(タイプ別)
◉ アクリルシリコン系
メーカー | 商品名 | 特徴 |
日本ペイント | パーフェクトトップ | 高耐候・高光沢・防藻防カビ、アクリルシリコンの代表格 |
エスケー化研 | 水性セラミシリコン | 実績豊富なスタンダード製品、コスパ◎ |
関西ペイント | セラMシリコンⅢ | 耐久性と作業性のバランスが良い |
◉ アクリルウレタン系
メーカー | 商品名 | 特徴 |
日本ペイント | ファインウレタンU100 | 鉄部・木部に強く、万能型ウレタン塗料 |
関西ペイント | アレスアクアレタン | 水性アクリルウレタン、臭気・環境対応 |
エスケー化研 | 水性ミラクシーラーエコ(下塗り) | アクリルウレタンベースの下塗り材としても人気 |
◉ アクリルフッ素系
メーカー | 商品名 | 特徴 |
日本ペイント | ファイン4Fセラミック | アクリル+4フッ化フッ素、高耐候・高耐久 |
エスケー化研 | クリーンマイルドフッソ | アクリルフッ素系で高級外壁に最適 |
水谷ペイント | ナノコンポジットF | フッ素+アクリルハイブリッド、超低汚染性が売り |
🔍 備考
- 製品名だけでは純アクリルか共重合かが判別しにくい場合もあるため、製品カタログやSDS(安全データシート)などでバインダー構成を確認するのがベストです。
- 「シリコン」と名のつく塗料の多くは、実際にはアクリルとの共重合タイプである場合が多く、純粋な有機シリコン塗料ではありません。ちなみに純粋な有機シリコン塗料は、耐熱塗料として煙突やボイラー等に使用されております。
昔、某メーカーのラボにて働いていた時、初期のアクリル樹脂トタンペイントのクレーム対応実験を担当いたしました。
一週間、湿気と紫外線の再現実験をいたしましたところ、その当時の合成樹脂に比べて明らかに性能は高いのですが、施工時期や場所によっても結果が違うことがわかりました。
また、光沢に関しても地域によって好みが分かれることもわかりました。
東北は、高光沢が好まれます(「ビカビカに仕上げてください」等)。北海道は光沢はそれほどでは無いのですが、滑っせつ性にこだわる方も多いように感じました。